補助輪付きの心臓

2008年に突然倒れ、ブルガダ症候群と診断。ICDを埋め込みながらも前向きに生活中。

ボルタリングにもランニングにも行けない

数年前からボルタリングが流行ってますね。自分も持病がなければきっと一度くらいはボルダリングジムに行ってただろうなと思います。 しかしながら実際には胸にICDを埋め込んでいる関係でぶら下がったりする運動は禁忌なので、見学はできても実際に楽しむことはできません。これはリード線に負荷がかかって断裂したりする恐れがあるからです。

他にも、ランニングやトレイルランなどもできません。これは胸が上下するような運動をすると、ICDに負荷がかかってリード線が抜けてしまったりする危険性があるからです。

結局のところ、自分ができる運動はかなり限られています。不幸中の幸いなのか、発病前から楽しんでいた自転車に関しては強く揺れたりしないため継続することができています。しかしながら、事故の際のリスクは普通の人よりも圧倒的に高いですし、実際担当医にも「長距離自転車に乗るのはやめた方が良い」と言われています。突き詰めると、のんびり歩くこと以外の多くの運動が推奨されない状態です。

一見すると健常者と見分けがつかないためスポーツへお誘いいただくことも多いのですが、説明して断るしか無いのが現実ですので寂しい限りです。

最近はS-ICDなど新たな選択肢が出始めているようですが、将来的にはそうした新たなテクノロジーによってこれらの運動制限も解消されると良いな、と感じています。

飲み屋を自由に選べない

ICDを埋め込んで生活していて地味に困るのがIH機器が禁忌とされている点かと思います。

具体的にどう困るのかといえば、鍋料理をIHヒーターで出すような飲み屋に行けないことです。 結構本人も気にするのを忘れがちで、IHヒーターにビクビクしながら料理をつつくということもありがちです。 飲みに誘ってくれる人もまさかそんなことがあろうかと気が回らないことが多く、かといっていちいち「その飲み屋ってIHヒーター使ってますか?」なんて聞くのも野暮ですよね。 まあ、野暮を承知で聞くんですが……。

携帯電話が実際にはICD(あるいはペースメーカー)に影響がなく電車の優先席近くで利用してはいけないのは単なる方便である、という認識も広まってきておりIHヒーターに対しても同様に思われがちです。 しかしながら実際に医者と会話すると「携帯電話は胸から離して使えば問題ないけど、IHヒーターや盗難防止ゲートなどそれ以外のことはちゃんとマニュアルに従って下さい」ということになり携帯電話よりもよっぽど警戒するべきという論調での会話になるので、当事者としてはそれなりに現実的なリスクを感じます。

お店によっては事前に事情を話しておけばカセットコンロで代用してくれるところも多いです。 なので私は積極的にこのことを話すようにしています。 将来的には、技術の進歩でこんなことを気にしなくても良くなるとうれしいですね。

自動車を運転できない

ペースメーカーは原則運転許可ですが、ICDは原則運転不許可です。免許更新時にも場合によっては面倒な手続きが必要です。

私のように長期間発症していない場合は医者からの許可が出るのですが、それでもできる限り運転はしたくありません(実は免許証自体は発症前に取得していました)。 というのも、運転中に発症した場合間違いなく事故を起こすからです。 私の場合は安静時ほど発症するリスクが高いので、自転車などと比べても危険性が高いと思われます。

これは現在のように都市部に住んでいるのならそれほど問題にはならないのですが、仮に地方で暮らす場合は圧倒的なハンディキャップになります。 私の実家はまさに自動車が無いと何もできない場所だったので、おそらく職場に行くことすら億劫でしょう(バスがギリギリ使える……というくらいでした)。 将来的に介護などで戻らなければいけなくなる可能性は否定できませんし、心配なポイントです。

また、私は趣味で釣りをしているので本当はレンタカーでも借りてドライブしたいのですが、それも難しい状況です。実際、一人で釣りに行きたい場合は電車釣行をしています。 このように、元々自分でできることが狭まれていたのが、さらに狭められているというのが現状です。

今はともかく、将来的に困るだろうな……と思っていて、とくに対策もできないというのが現状です。 そういう意味では自動運転の発展には期待していて、実用レベルになれば私でも自動車を運転できるようになるのではないかという希望があります。

バリウム検査を受けられるのか問題

今年人間ドックを受けた際に「君は(その時は)29歳だから今回バリウムやらなくていいけど、来年バリウムやって良いか担当医に確認しといてね」みたいなことを言われた覚えがあって、若干不安になりました。 担当医に確認したところ「全く問題ない」と言われたものも、軽く自分で調べても正直良くわかりませんでした。

例えばみんなだいすきWikipediaを参照すると、

被検査者の放射線被ばく量を低減するために、近年のX線診断装置では断続的なパルス状にX線を照射する方式が選択できる。2009年にこのパルス状X線照射により植え込み型心臓ペースメーカーにオーバーセンシングが起きたケースが確認され、同年に厚生労働省よりすべてのペースメーカーに対する製品添付文書の改訂指示が出されている[32]。指示ではパルス状X線照射がペースメーカー本体部にかからないように注意を喚起している。

と書いてあり、注意の必要はありそうに見えました。

ちなみに自分が埋め込んでいる機械はICDですが大体ペースメーカーと似たような制限が課せられるので、調べ物をするときは情報の多いペースメーカーについて調べることが良くあります。

まあ現実的には検査時に申し入れて検査技師に注意してもらえればそれで良さそうな印象ですが、そのものズバリな情報が出てこないのでイマイチ安心感に欠けます。バリウム検査自体も具体的にはどんな検査が行われているのか簡単に調べただけではよく分かりませんでした(自身で受けたこともなくまだ未知の領域なのです)。

さらに現実的に考えると単に人間ドックの機関がビビって責任を取りたがらずに単に確認しているだけで、現実には安全であることは明らかで情報をまとめて出す必要すら無いという筋も考えられますが、それならそれでそんな不勉強な機関で検査を受けて大丈夫なのか……という別の不安もあります。とはいえ、誰も面倒な患者の責任を取りたがらないのは珍しくはありません。

とりあえずの結論としては「受けて良いけど、念のため注意する」というものになりそうです。 なお、バリウム検査を受けられない場合は胃カメラ検査になるようです。胃カメラ検査は聞くところによると非常に辛そうなので、できれば避けたいところですね。

リュックサックが背負えない

ICDを胸に埋め込んで物理的にも困っていることが多いです。特に最近気になっているのはリュックサックを背負えないこと。リュックサックを背負うと胸のICDとリュックサックのベルトが干渉するのでショルダーバッグを使わざるを得ません。

最近出張する機会も増えたのでPCを持ち運びたいのですが、重たいPCをショルダーバッグで持ち運ぶのは正直結構しんどいです。 また、ICDが邪魔でショルダーバッグの背負い方もある程度限定されます。なので疲れても背負い方を変えづらいという問題もあります。

結果として最近はもうPCを持ち運ぶこと自体をやめつつあります。

軽いPCに買い換えても良いのかもしれませんが、エンジニア的にはある程度スペックの高いPCを使いたい気持ちもあり、悩ましいところです。 甘えるな筋力を鍛えろ!なんて考える人もいるかもしれませんが、それはそれでICDを埋め込んでいると腕部の筋トレはかなり制限されるという現実もあります。

こういったパッドも売っているようですが、あまり期待できなさそうだしどちらにせよ蒸れそうなので自分では試したことがありません。どうなんですかね?

元々ショルダーバッグよりもリュックサックの方が好みだったのでずっと困っています。自転車で遠出するときなんかもメッセンジャーバッグを背負うしか無くて、左肩が非常に痛くなります。 担当医に何か良い解決策は無いか聞いてみても、現状特に無いようです。

というわけで特にオチはないのですが、とにかく困っているという話でした。

眠るのが怖い

どんなことから書き始めようかと悩みましたが、先ずは単純に辛かったことでも思い出してみようかなと思います。 辛かったことといえば色々とありますが、その中でも眠るのが怖くなってしまったことがありました。 と言いますのも、私の持病は落ち着いている時ほど発症する可能性が高く就寝中が一番発作が起きる可能性が高いからです。

発作が起きると当然気を失うのですが、その直後に胸に埋め込んだICDの電気ショックで叩き起こされます。 起きた直後は電気ショックの記憶があまり無いので何が起きたかよく分からず非常に混乱しますし、血流が滅茶苦茶になっているので体もフラフラです。 強烈な違和感から「あ、発作が起こったのかな」と思い呆然とベッドに座っていると、2度め3度めと発作がくることもあります。 そうなると救急車を呼ぶしか無いのですが、私は独り暮らしなので何度も意識を飛ばしながら救急車を呼んで入院する準備をすることになります。 意識を失うまで分からなかったのですが、意識を失うと簡単に頭をどこかにぶつけてしまうので非常に危険です。 正直119に電話するのもかなり辛いです。 ICDのおかげで致死率が抑えられているのがせめてもの救いというところ。

全体的に最悪の体験なのですが、この中でも電気ショックが非常に苦痛です。拷問にも使われるようなものですから当たり前でしょう(程度は違うんでしょうが)。 痛みもありますが、それよりも身体のコントロールが奪われる強烈な違和感が厳しいです。非常な無力感があります。 医者から聞いた話では、海外では電気ショックでPTSDになって自殺してしまった患者もいるそうです。

とはいえ眠らないわけにはいきませんよね。 どちらにせよそれはそれで身体のリズムが崩れ、発作を招きます。

私の場合は単身で上京して新卒入社後の初年~2年目くらいが一番発作が起きていた時期だったのですが、当然メンタルのバランスを崩し眠るのが怖くなってしまいました。 平常時でも何かの拍子に気持ちが悪くなって発作が起きるような気がして病院に行ったりしていたら、就寝前に向精神薬を飲むことになってしまいました。 当時は寝る前に本当に何事もないように何かに祈りながら薬を飲んで寝ていたので、結構病んでいたなと今になって思います。

その後はそのとき飲み始めたキニジンという心臓の薬との相性が良かったのか発作が起きなくなり、病気に対する心構えもある程度できてきたのか数年をかけて薬の量も減らし生活も安定してきました。 特にここ3年くらいはかなり快調に過ごせています。

おそらくここまで読んで「そんなに危険なら独り暮らしをやめて親元で暮らせよ」と思う方もいるでしょう。 まあ、それは正論です。ただ、家庭の事情があったり、ソフトウェアエンジニアとして活躍したいという強い気持ちもあったので、リスクを受け入れてこうした選択をしました。

結果論ですが、今では発作もしばらく起きていませんし仕事もきちんとできているので、そうして良かったなと思っています。

となると人生のパートナーを見つけるのが妥当な選択だと思いつつ、単純にモテませんし、それはそうと色々と思うところもあり、それについてもいつか気が向いたら何か書こうと思います。

実は私、身体障害者です

21歳のとき授業中に倒れてブルガダ症候群と診断され、ICDを埋め込んでから気づけば8年経ち、その間にも色々とありましたが何とか普通に仕事をして生き残ることができています。 しかしながら「普通に」生きているからこそICD埋め込み患者特有の制限がうまく伝わらないこともあり、居心地の悪い思いをすることもよくあります。

まあこんなものか……と緩慢に諦め始めていた時、以下のブログを見つけました。

oppai-survivor.hatenablog.com

しばらく購読しているうちに段々と「自分も持病をテーマにブログを書けばもっと伝わるのでは?」という思いが大きくなり、今回試しにこのブログをはじめてみることにしました。 自分の場合は病気が発覚してからかなり時間が経って慣れてきているのでオンタイムで伝えたいことはあまり無さそうですが、過去を振り返ったり現在の考えなどについて書いていければと考えています。

先ずはそもそもブルガダ症候群についてご存知でない方のほうが多いと思うので、自分の状況と併せて簡単に紹介します(なお、自身の記憶を頼りに書いているので間違っているかもしれません)。

ブルガダ症候群は心臓の病気です。ただ、比較的最近明らかになった病気であり、症候群の名が示す通り詳しいことはまだあまりよく分かっていません。発作が起きた場合の致死性が高く、対症療法的に機械を身体に埋め込むことがあります。私の場合はICDという機械を身体に埋め込んでいますが、これはちょうどここ数年でビルなどに設置され始めたAEDという機械と役割は近いものです。もちろん予防するにこしたことはないので、薬物を併用することが多いです。私は現在キニジンという薬を朝昼晩に飲んでいます。

さて、この機械というのが曲者です。当然ですが人間の身体は機械が埋め込めるようにできていないので、埋め込むと様々な制約が発生します。心臓に電気を流すために血管を通して電線を通すのですが、外れてしまったりしないように身体を伸ばしたり激しく動くことは禁忌とされます。機械自体も200gほどありサイズもそれなりに大きいので、単純に邪魔です。寝るときに横になりづらかったりします。

電磁波の影響を受けて誤作動を起こす可能性があるためIHヒーターや防犯ゲートなどにも気をつける必要があります。電車での携帯電話利用についてペースメーカー埋め込み患者のことがよく引き合いに出されますが、私が知る限りでは胸に直に置かない限りは特に問題ないようです。 最近意外だったのはiPadの磁石が悪影響を及ぼすので胸の上に置いてはいけないというもので、知らなければやってしまいそうでした。

また、バッテリーが6年前後で切れるため定期的な交換手術が必要でもあります。手術自体が身体の負担になりますし、手術跡が細菌感染すると心臓に達する可能性があるため非常に危険です。リード線も老朽化する一方で取り除くことができないため、年が経つほど体内にゴミが残っていくことになります。ということは、どこかの段階でそもそもICDの埋め込み自体が困難になります。

ここまで書くと、私のような若い患者にとっては正直かなり絶望的な気分になります。今は大丈夫でも、数十年後には考えたくもない状況に陥りそうです。でも1つだけ良いニュースがあります。それは、この分野の研究が数年単位で進歩していることです。医者の言葉を借りれば、10年単位で機材は変わっているようです。

なので、技術の進歩に期待して生きています。

簡単に、と言いつつ少し長くなってしまいましたね。今日はこれくらいにしておこうと思います。これから少しずつ紹介できれば幸いです。